泌尿器科

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手術支援ロボットによる腎細胞癌に対する腎部分切除術開始のお知らせ

2012年4月より、ロボット支援前立腺全摘除術が保険適用になりました。2015年4月当院では北大阪エリア自治体病院として初めて手術支援ロボットda Vinci(ダビンチ)を導入し、2015年5月からロボット支援前立腺全摘除術(Robot-Assisted Radical Prostatectomy = RARP)を開始しました。
近年患者様の肉体的、精神的負担の軽減につながる医療の低侵襲化が各科領域で進んでいます。泌尿器科領域の疾患に対する手術手技においても、術後のより早い回復や疼痛の軽減、入院期間の短縮などに結び付く低侵襲化が推奨され、様々な術式が普及しています。

手術支援ロボットダビンチは2000年米国で導入されて以後、その低侵襲性から症例数は急増し、海外では婦人科・泌尿器科・消化器外科などの幅広い疾患に対して行われています。国内では2009年に導入され2016年1月の時点で臨床用ロボットとしては全国で211台(米国に次いで世界第2位の保有台数)・大阪府下で18台となっています。なお国内でのロボット支援手術の保険適応が得られている疾患・術式は、2012年4月保険収載となった前立腺癌に対するロボット支援前立腺全摘除術と2016年4月保険収載となった腎細胞癌に対するロボット支援腎部分摘除術(Robot-Assisted Partial Nephrectomy = RAPN)のみとなっています。当科では導入後1年5か月の間に85例のロボット支援前立腺全摘除術を安全に行ってまいりました。今回当科では新しく保険適応となったロボット支援腎部分摘除術を2016年8月に初回症例として実施いたしました。

ロボット支援手術とは

  • もちろんロボット支援手術といってもロボットが独自に手術を行うわけではありません。医師がロボット操作用の台であるコンソールから、3次元立体画像を見ながら手術用の鉗子類を装着したロボットアームを操作して手術を行います。(図1)

  • 図1 左から術者用サージョンコンソール・ペイシェントカート・ビジョンカート

    図1 左から術者用サージョンコンソール・ペイシェントカート・ビジョンカート

  • 腹部に小さな穴を開け、炭酸ガスでお腹を膨らませた上で内視鏡や鉗子類を入れて手術を行います。当院が導入した最新型のda Vinci Si system(ダヴィンチSiシステム)はその3世代目のバージョンにあたり、高倍率の拡大立体視野がハイビジョンで得られ、内視鏡カメラやロボットアームに装着された鉗子類は術者のコントロール下に置かれます。この7つの関節を有する鉗子は、関節の540度回転など人間の手をはるかに超えた動きが可能で、手先の震えが伝わらない手振れ補正機能があり、安全で精密な手術が可能となります(図2)。

  • 図2 鉗子類は術者の指示を忠実に再現

    図2 鉗子類は術者の指示を忠実に再現

ロボット支援手術のメリット

  • 腎細胞癌について
    ~検診超音波検査で発見される偶発癌が多い~

    腎臓にできる腫瘍の約70%が悪性であり、そのほとんどが腎細胞癌です。腎細胞癌は、人口10万人あたり男性で約7人、女性で3人程度に発生し日本でも増加傾向にあります。癌の中では非常にゆっくりと大きくなるタイプが多く、腎臓に「癌」ができても、症状が出にくいのが特徴です。以前は肉眼的血尿や側腹部の腫脹・疼痛などの局所症状や、原因のはっきりしない発熱・体重減少などの全身症状を契機に発見されることが多くみられました。しかし最近は超音波検査やCT検査などの普及により、人間ドック・健診あるいは他の目的で行った検査で偶然見つかるケースが増えています。言い換えると早期発見が増え、早期治療が行われ、治療後の予後が良くなっているのです。

  • 図2 鉗子類は術者の指示を忠実に再現

病期分類

Ⅰ期:腫瘍の大きさが7cm以下で腎臓に限局し、リンパ節転移や他臓器転移を認めない。
Ⅱ期:腫瘍の大きさが7cmを超えるが腎臓に限局し、リンパ節転移や他臓器転移を認めない。
Ⅲ期:腫瘍は腎臓に限局し、他臓器転移を認めないが、所属リンパ節を1個認める。あるいは腫瘍が主静脈に進展または副腎・腎周囲組織に浸潤するが、Gerota筋膜を超えず、リンパ節転移は認めないか所属リンパ節転移1個で、他臓器への転移を認めない。
Ⅳ期:腫瘍がGerota筋膜を超えて浸潤する。2個以上の所属リンパ節転移があるか、他臓器への転移がある。

治療法として転移がなければ手術治療(根治的腎摘術あるいは腎部分切除術)が標準的で、5年生存率はⅠ期 90% Ⅱ期70% Ⅲ期50% Ⅳ期 20%と如何に早期に腫瘍を発見し早期に手術治療を行うかが重要となります。従って健診での超音波検査・CTが欠かせなくなるのです。

腎細胞癌に対する腎部分切除とは

  • 現在、健診などによる発見が多いことから、腎腫瘍と診断される60%以上は4cm以下の小径腫瘍であるとされています。小径腎腫瘍においては腎部分切除が根治的腎摘術に比べ、癌細胞の取り残しなどの癌制御において遜色なく、腎機能および生命予後において良好であることから第1選択になっています。さらに従来開放手術により行われてきた本術式は、その低侵襲性から腹腔鏡下腎部分切除術へと移行されている。当科でもH26年より本格的に導入し症例数を重ねています。

    腎部分切除術には①腫瘍の同定 ②腎血管遮断 ③腫瘍切除 ④切除面の縫合というステップがあり、いずれも腹腔鏡手術では難易度の高い手技であるとされています。さらに腫瘍切除の際には腎動脈血流遮断を必要としますが、この腎温阻血時間をいかに短縮するかで、術後腎機能がどれだけ温存できるかが決まります。

腎細胞癌に対するロボット支援腹腔鏡下腎部分切除

今回当科では腹腔鏡での部分切除術に加えて、2016年8月よりロボット支援下の腎部分切除術を導入することになりました。ダビンチはその高解像度3D視野・多自由度鉗子・手振れ防止機能などの良好な操作性を兼ね備えており、腹腔鏡に比較して正確で迅速な腫瘍切除が可能で、切除面の縫合も極めて容易となることから、腫瘍部分を切除する際に行う腎血流遮断時間の短縮につながるとされています。腎血流遮断時間の短縮は術後腎機能の保持に結びつくといわれており、さらに正確な腫瘍切除により癌細胞の取り残しが予防できること・確実な腎臓の実質の縫合が可能となることから術後腎出血・尿路外溢流・仮性動脈瘤の頻度が低くなることなど、患者様側のメリットはかなり大きいと考えられます。

ロボット支援腎部分切除手術内容・入院経過について

手術アプローチには経腹膜アプローチと腹膜外アプローチがありますが腫瘍の位置により使い分けます。今回は経腹膜アプローチをお示しします。

  • a. 手術は全身麻酔で行い、術後の痛みを和らげるため背中から硬膜外麻酔用のチューブを入れることもあります。体位は患側を上にした側臥位(ジャックナイフ)で行います。

  • b. 図4に示すように臍周囲及び側腹部に4-5か所、直径1-2cmほどの皮膚切開を加えて、この部位にポートと呼ばれる筒状の器具を留置し、手術中に手術器具の出し入れを行います。

c. 腎周囲を剥離し腎腫瘍を同定。術中エコーを用いて腫瘍境界を確認し切除ラインを決定する。

  • d. 腎血管(腎動脈・腎静脈)をブルドック鉗子を用いてクランプ。腎血流遮断開始。その間に●腎腫瘤周囲をマーキング ●腫瘍を切除 ●切除面を1-2層に縫合。(腎杯・尿路が開放した場合には尿路外溢流を予防すべくこれを縫合)


e. 切除面の縫合が終了した時点で腎血管クランプ解除・腎血流再開。

f. 尿を取り出す管(尿道バルーンカテーテル)を尿道から膀胱内に留置し、縫合部の周辺に管(ドレーン)を入れて皮膚から出しておきます。

g. 術翌日より飲水開始・術後2日目に食事・歩行開始。ドレーンは3日程度で抜去します。手術後4-5日目尿道バルーンカテーテルを抜きます。

h. 創部の抜鈎が終了すれば退院です。入院期間は通常約9日間となります。

おわりに

ロボット支援前立腺全摘除術に加えて、当科では2016年4月に保険収載が認められた腎細胞癌に対するロボット支援腎部分切除術を2016年8月より導入いたしました。地方自治体病院ではございますが、主要な泌尿器癌のうち前立腺癌・腎癌の二つをロボット支援手術で行うことが可能となります。より一層患者様のご要望にお応えできると考えております。手術支援ロボット“ダビンチ”を保有する当院の使命として今後も癌治療を推進してまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。